ため息のわけを教えてください
「ええ、無理ですね。絶対に。坂巻? 言ったって無駄ですよ。そちらの言っているような次元の話じゃないので。うちの部下に余計な仕事を与えないでくれませんかね」
いつもは「ああ」とか「おう」以外には殆ど話さない大福さんが、淀みなく話をしている。仕事モードの姿が新鮮で、盗み聞きは良くないと思いながらも、聞き入ってしまう。
半ば強引に電話を切って、大福さんは獣の唸り声のようなため息を落とした。「てめえらの不手際をこっちに押し付けてくるんじゃねえ」と舌打ちして、彼はこちらに向き直った。
そこにもうわたしがいないと思っていたのだろう、勢いよく一歩を踏み出した彼は、上体を仰け反らせている。
「あ、すみませんでした。驚かせてしまって」
きまりが悪かったのか、眉間に皺を寄せたまま、大福さんは口元に手を当てて咳払いした。時々見かける仕草だ。
「いつもこの時間に帰りなのか」
「いえ、今日は後のシフトの人が来るのが遅くなったので、残業だったんです」
「大変だな」
わたしは駅の方に向かって歩き始めた彼の、隣に並んだ。自分が制服を着ていないからなのか、プライベートで会っているような気分だ。
彼は異様に早足だった。まるでわたしを振り切ろうとするように、線路沿いの道をぐんぐん行く。終電の時間が近いのだろうか?
いつもは「ああ」とか「おう」以外には殆ど話さない大福さんが、淀みなく話をしている。仕事モードの姿が新鮮で、盗み聞きは良くないと思いながらも、聞き入ってしまう。
半ば強引に電話を切って、大福さんは獣の唸り声のようなため息を落とした。「てめえらの不手際をこっちに押し付けてくるんじゃねえ」と舌打ちして、彼はこちらに向き直った。
そこにもうわたしがいないと思っていたのだろう、勢いよく一歩を踏み出した彼は、上体を仰け反らせている。
「あ、すみませんでした。驚かせてしまって」
きまりが悪かったのか、眉間に皺を寄せたまま、大福さんは口元に手を当てて咳払いした。時々見かける仕草だ。
「いつもこの時間に帰りなのか」
「いえ、今日は後のシフトの人が来るのが遅くなったので、残業だったんです」
「大変だな」
わたしは駅の方に向かって歩き始めた彼の、隣に並んだ。自分が制服を着ていないからなのか、プライベートで会っているような気分だ。
彼は異様に早足だった。まるでわたしを振り切ろうとするように、線路沿いの道をぐんぐん行く。終電の時間が近いのだろうか?