ため息のわけを教えてください
「橋爪さん何線ですか?」
「総武線」

「一緒です。わたし三鷹なんです。今日みたいなことがあって、終電間に合わないときには、地下鉄で乗り継いで帰ったりもするんですけれど」
 総武線ならば、どこに向かうにしても、終電までまだ少なくとも二十分はあるはずだ。それなのに、大福さんの歩くスピードがまた一段上がる。どうしても横に並べない。さっきは大丈夫だと思ったのに、義理クッキーの傷はそれほどまでに深かったのだろうか。

「じゃ、俺は飯食って帰るから。おつかれ」
 急に彼は足を止めた。

「わたしもご一緒してもいいですか。お腹が空いて倒れそうなんです」
 大嘘をついて強引に呼び止めると、大福さんは振り返り、頬を引きつらせた。

「飯の出てくる早さ以外取り柄のねえ、きたねえ店だぞ」
「あ、ちょうど良いですね。時間も遅いですし」
 わたしはぽんと手を打った。

「あっち」
 大福さんは顎で、昼間でも薄暗そうな、ビルの狭間の路地を指す。通ったことのない道どころか、ここが道であることを意識すらしたことがない。
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