ため息のわけを教えてください
 注文が終わると、大福さんはプラスチックグラスに注がれた水を一気に飲み干した。手もみして、ため息を落とす。首は斜め右を向いたままで、目が合わない。迷惑だったかなあ、と落ち込んでいると、生ビールが二つきた。

「めずらしいね、同じ会社の方?」
 皺にみっちりとファンデーションの埋め込まれた、隙のないメイクをした女性店員から訊かれて、彼は渋い顔をした。

「いや、違う」
 ああ、と彼女は間髪おかずに手を打った。

「二日遅れのバレンタインデートか。そういうときくらい、他のお店に行けばいいじゃないの。なんでこんなとこ連れてくるのよ」
 明るい声で笑いながら、出来上がった料理を取りに、厨房へ戻っていく。弁明するタイミングを逃してしまった。

「くそ。すまんな、他の店いきゃよかったな。いつも同じ顔ぶれで、居心地が悪いわ」
 ふと周りに目を向けると、カウンター客まで振り返ってわたしたちのことを見ていた。
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