ため息のわけを教えてください
 一人だけ、ラーメンを啜るのに夢中になって、振り向かない客がいる。耳の上に分け目を作った寂しい髪、耳にはパチンコ玉が詰まっている。まさかあれはバーコードさん? わたしは背を丸めて俯いた。

 大福さんはいつの間に、ジョッキを半分空けている。時間があまりなかったことを思い出して、わたしも胃にビールを流し込む。

 一度はちゃんと話してみたいと思ったのに、周りに聞き耳を立てられそうで、話せない。間が持たないと、心配する暇もないくらいの早さで、具だくさんの五目ラーメンが出てきたのは救いだった。

大福さんは具の下から麺を掬い上げて、掃除機のように一気に啜った。真似をして豪快にいきたいところだったが、猫舌だ。表面から攻めるのが完食への近道になる。

 早食いベストタイムの更新を目指して五目ラーメンと格闘していたが、わたしの箸が麺にたどり着く前に、彼の食事は終わってしまった。ビールを追加注文して、スマートフォンを取りだした。

「仕事のメールだけ一本入れさせてくれ」
「どうぞ、いくらでも。わたしそういうの全然気にしないタイプなので」
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