ため息のわけを教えてください
 むしろ、食べ終わるまではずっと弄っていて欲しいくらいだ。ただ待たれる方が気まずい。黙々と食事をする間に、彼は向かいで自分の世界。

よく同僚から「一緒にいてもそれぞれ別のことをしていたら意味がない」という愚痴を聞かされるが、わたしはそうは思わない。そういう時間も結構好きな方だ。

 骨格のしっかりした、四角い手に目を落とす。こうやってパーツをまじまじと観察できるのも、相手の意識が他に向いているメリットかもしれない。それに、一緒にいるときには相手のために時間を使う、それをルールにしてしまうと、自分の時間がどこにもなくなって、息が詰まってしまう。

「ごちそうさん」
 バーコードさんが立ち上がった。彼は振り返るとわたしの顔をじっと見つめてきた。それからテーブルの横をすれ違おうとして、足を止めた。

「こんばんは」
 気付かないふりもできずに話しかけてみたが、耳栓で聞こえなかったかもしれない。バーコードさんの目は、隣の椅子に置かれていた、わたしの荷物に釘付けだった。

「余ったんだ、義理」
 思わぬところから義理クッキーの話が湧いてきて、背中に汗が噴き出した。
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