ため息のわけを教えてください
自動ドアが開いて、仕事帰りの人たちがぱらぱらと入店してきた。わたしはネクタイピンをしまって、立ち上がった。
明日は初めからひとつ大福さん用に綺麗なものを取っておいて、間違いなくそれを渡そう。バレンタイン企画があと二日続くことに、今は感謝しかない。
翌日も二十二時に大福さんが来店した。いつもと何ら変わりはない。定番のルートを巡って大福とコーヒーを手に取り、真っ直ぐレジに向かってきた。
けれどここからが違った。金額を伝えると、彼はスーツの袖を軽く上げ、腕時計の盤面を見せた。スマートウォッチでの電子マネー決済だ。いつもは現金払いなのに、いきなりどうしたのだろう。袋詰めを済ませると、彼はさっと袋を取って立ち去ろうとした。
「あ、ちょっとお待ちください」
わたしは彼を呼び止めた。保存しておいた、きれいな状態のクッキーを差し出した。沈黙が続く。どんな表情をしているのか知るのが怖くて、わたしは自分の手元ばかりを見つめていた。『好きです』という文字はもう見慣れているはずなのに、胸が痛くなるくらい、鼓動が速くなっている。
明日は初めからひとつ大福さん用に綺麗なものを取っておいて、間違いなくそれを渡そう。バレンタイン企画があと二日続くことに、今は感謝しかない。
翌日も二十二時に大福さんが来店した。いつもと何ら変わりはない。定番のルートを巡って大福とコーヒーを手に取り、真っ直ぐレジに向かってきた。
けれどここからが違った。金額を伝えると、彼はスーツの袖を軽く上げ、腕時計の盤面を見せた。スマートウォッチでの電子マネー決済だ。いつもは現金払いなのに、いきなりどうしたのだろう。袋詰めを済ませると、彼はさっと袋を取って立ち去ろうとした。
「あ、ちょっとお待ちください」
わたしは彼を呼び止めた。保存しておいた、きれいな状態のクッキーを差し出した。沈黙が続く。どんな表情をしているのか知るのが怖くて、わたしは自分の手元ばかりを見つめていた。『好きです』という文字はもう見慣れているはずなのに、胸が痛くなるくらい、鼓動が速くなっている。