すてきな天使のいる夜に~3rd story~
手に持つ封筒が重く感じる。
いっその事、こんな結果破いて捨てようかな。
成績が伸びたことは素直に嬉しい。
そのために、今まで頑張ってきたから。
その努力が、結果として着いてきたから頑張って良かったと思う。
だけど、自分の行きたい大学を反対されるならこんな結果いらないよ…。
重いため息が、回りの空気の中に混ざっていく。
「七瀬さん?」
後ろから声がして振り返ると、佐々木先生が私の背中に手を当てていた。
「先生…」
「喘鳴が出ていますね。急いで、吸入しないと。
吸入器はありますか?」
怒りのあまり、喘息の発作を引き起こそうとしていたことに気づかなかった。
制服のポケットに入れてある吸入器を取りだし、ゆっくり吸入を行った。
「ゆっくり、深呼吸して下さい。」
佐々木先生に言われて、深呼吸をする。
「大丈夫ですか?」
「はい…。」
そう返事をしたものの、未だに心の中のモヤモヤは消えなかった。
「七瀬さん、顔をあげください。」
俯く私の頬に手を添え、佐々木先生と目を合わせる。
「はい。」
「まだ、何か悩んでいるようですね。
前にも話したかもしれませんが、誰かに頼って助けを求めていいんですよ。
少し顔色もよくないので、保健室へ寄っていって下さい。
担任の先生からは、私が話しておきますから。」
そう言って、優しく笑顔を向ける佐々木先生。
私は、素直に頷き佐々木先生と一緒に保健室へ向かった。
「話せますか?」
保健室の扉に『面談中』と書かれたラミネートされた札を掛けてから、佐々木先生は私に尋ねた。
「さっき、校長先生から呼び出されてこの前の模試の結果を渡されたんです。
それで…10位以内に入ったことを知って、もっと上の大学に行くことを薦められました。
妥協して、私が大学を選んでいると言われて…。
私は、ただ医者になりたいわけではないんです。
学びたい大学で学んで医者になりたい。」
佐々木先生は、何も言わず頷きながら私の話を聞いてくれた。
「七瀬さんの成績のことは、朝の会議でも話に上がりました。
七瀬さんの努力が、今結果として現れていて急激に伸びていることは自分でも気づいているとは思います。
たしかに、ここは進学校で七瀬さんは特別進学クラスだからこそ、校長先生も結果にこだわっているんだと思います。
名門大学に進む生徒が多いほど、この高校の偏差値が上がり人気にもなりますからね…。
ですが、いくら成績が良いからと言ってその子を取って捕まえて、行きたくもない大学へ薦めることは私もおかしいと思います。
七瀬さん。
あなたの担任の先生と、私はあなたの進む道を応援したいと考えています。
校長先生のことは、気にしなくて大丈夫。
自分の行きたい大学に進んでください。
誰が何と言おうと、私や担任の先生はあなたのことを守りますから。」
佐々木先生は、優しい笑顔を私に向けてくれた。
佐々木先生の話を聞いて、少しだけ心が落ち着いた。
心の中にあった怒りの感情も嘘のようになくなって、心にあった霧が晴れたような気がした。
「ありがとうございます。
私、やっぱり自分の行きたい大学に進学します。」
「また、何かあったら来てください。
一緒にお茶を飲みましょう。
それから、放課後お迎えもここで待ってるんですよね?
授業が終わったら、忘れずこちらへ来てください。」
「はい。失礼しました。」
佐々木先生と話せてよかった。
私は、保健室を後にしてから教室へ戻った。