オスの家政夫、拾いました。1. 洗濯の変態編
「まず、なにより先に、峯野に謝りたい」
社長の言葉に彩響が顔を上げた。今の発言が信じられない。他の役員たちも同じ反応だった。ざわざわする中、社長の話が続く。
「大山の悪い癖に関する噂は俺の耳にも入っていた。しかし峯野から何も言われなかったし、俺も甘く見ていた…いや、見て見ぬふりをした。騒ぎになるのも避けたかったし、俺の会社が外で変な噂の対象になるのも嫌だったからだ」
「……」
「俺も昔は大山のように思っていた。女はただ家で飯作ればいいだけの存在だとか、女が職場で大きい顔をするのは良くないだとか、そんなことをずっと考えてきた人間だった。…しかしそれは大間違いだった」
社長がデスクの上においてあった携帯を持ち、彩響に返す。彩響はなにも言わずそれを受け取った。社長の話が意外すぎて、今どんな反応をすればいいのかよく分からない。ただ口を閉じ、そのまま聞くことしかできなかった。
「今まで長年この会社をやってきて、最もいい実績を出し、最も誠実に成果を上げてきたのは俺があれだけ推していた男たちではなく、ここにいる峯野彩響だった。何があっても必ず出席し、絶対言い訳をせず、自分の場所を守る。もちろん、お前らが勝手に自分らだけの昇進パーティーを開いてる時もだ。今この中でこの話に否定できるやつがいたら手をあげてみろ」
誰も手をあげず、気まずく周りの様子を探る。社長もこんな反応を予想していたのだろう。役員たち全員を見回すが、誰一人社長と目を合わせようとしない。社長は深いため息をついた。とても複雑な意味を込めているため息だった。
「皆も直接アクションは起こしていないが、峯野を非難している時点でもう大山と同罪だ。この中で、誰か一人でも、大山が峯野にセクハラしている時やつを止めていたら、大山の普段の言動が正しくないと一言でも言っていたら、ここまでやつが暴走することはなかった。あやつは俺たち全員が…いや、この世界が育てた化物だ」
「……」
「そして、今ここで何もしなければ、又どこかで同じことが繰り返される。俺にも娘がいるが、こんな世界をこのまま残したくない。…峯野」
「は、はい」
「君には本当に申し訳ないことをしてきた。もう既に遅いが、どうかこれからの変化を見守ってくれ。だからこれまで通り、この会社の一員として働いて欲しい。そうしてくれるか?」
社長がそう言って頭を下げる。その姿が信じられなくて、疑わしくて、夢でも見ているようだ。今でも社長のあの発言を、自分をあれだけ必死にさせたあの言葉を覚えているのに。…今までの7年、自分が命賭けでやってきたことが全部無駄ではなかったと証明されたようで、凄く嬉しかった。
「…元々、辞める気はありませんでした。物議を醸したことでクビになるとは思っていましたが」
「聞いてくれてありがたい」
すっと社長が振り向いて役員の皆に大きい声で言った。