性悪なヤツらの取り扱い方を教えてください。
それだけは本気で困る。
恥を承知で意を決し
グッと拳を握り頭を深く下げながら
男に向かって声を張った。
「仕事がなくなるんです!
せめて住む家をくださいッ!!」
まるで借金取りに『支払いを待ってください』と言ってるようなもの。
まさかこんな理由で頭を下げる日が来るとは。
私はプライドっていうものがないんだろうか。
どうせまた馬鹿にしてくるんだろうなと思ったが、男は一瞬、口角を上げて笑みを浮かべると意外な言葉を口にした。
「仕事と家が欲しいか、なるほど。
なんならその希望
俺が叶えてやるよ」
「…へ?」
思いもよらない呆気ない返答に拍子抜け。
怖い人かと思ったけれど
案外いいヤツなのかも?
「アンタ、名前は?」
「何、急に…」
「いいから、早く」
「蓮見…詩菜、ですけど…」
いきなり名を聞かれるとは
ちょっとどうかと思うが、つい答えてしまう。
「本当に住むところと仕事
両方紹介してくれるんです…? 」
男の真意を確かめるため念を押してもう一度聞いても、当人は首を縦に振って答えるだけ。
怪しい気もするけれど
両方の悩みの種がサクッと一気に解消したんだ。
こんな美味しい話に乗らない手はない。
「じゃぁ、お願いします」
直角近い角度で頭を下げて返事をした。