悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!
ナタリアは何も答えることができずに、ただ唇を震わせてリシュタルトを見つめていた。

「怖くて当然だろう。お前の母親をこの手で処刑したのだからな。それから赤ん坊だったお前を塔に閉じ込め、一生幽閉しようとした」

てっきりギルの処刑、もしくはナタリアに対する何らかの処罰を言い渡されると思っていたから、ナタリは拍子抜けする。

「え、と……」

「俺は父親失格だ」

まるで、ナタリアの母を処刑し、ナタリアを幽閉したことを悔いているような言い方だった。

実際、彼はそのことがずっと気がかりだったのだろう。

そうでなければ、こんなときにそのことに言及しないはずだ。

自分の方が追い込まれている立場でありながら、ナタリアはなんだかリシュタルトが気の毒になってくる。

ナタリアの母がどれほどの悪女だったかはもう分っている。

私欲のために獣を容赦なく殺すような人間は、ナタリアも許せない。

それでも番である以上、リシュタルトは彼女を傍に置き続けた。

だが彼の純粋な気持ちは、不貞という最大の裏切りによって、憎しみへと変わってしまったのだ。

「……そのことで、お父様を怖いと思ったことはありません」

ナタリアは、素直な気持ちをリシュタルトに伝えた。

「お父様だって、悩んだ末にそうなさったのでしょう? 私でもきっとそうしてました。私の存在はお母さまを思い出させるのだから、視界に入れたくないお気持ちは分かります」

当然のことのように物語るナタリア。

リシュタルトの目がみるみる見開かれる。

「だって、人は誰だって、辛いことから逃げ出したいし目を背けたいもの」

ナタリアだってそうだ。

アリスから逃げ出したくて、必死にここまでやってきた。

リシュタルトからの愛を感じるようになってからは、アリスに夢中になる彼を見るのがますます怖くなった。

逃げ出したいし、目を背けたい――その一心で生きている。

生き物であれば当然の心理だ。

彼が偉大なる獣人皇帝だからといって、別格であるわけがない。

リシュタルトはしばらく時が止まったようにナタリアを見つめていたが、やがてフッと溶けるように口元を綻ばせた。

「お前はときどき、大人のようなことを口にするな」

リシュタルトが、ナタリアの隣に腰掛ける。

「獣人が獰猛化するのは、獣が獰猛化するよりもやっかいだ。理性を失い、自我が保てなくなる。凄腕の獣操師ですら止められないことがある。俺はもう、二度とそうなりたくない」
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