悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!
「ア…モン……?」

クライドがどうにか絞り出した声は、ひどく枯れていた。

喉がふさがれたように呼吸がしにくく、肩が激しく上下する。

「ぼくは……」

クライドは今、東屋のような粗末な建物の中に横たわっていた。

たしか真夜中、大人たちに無理矢理馬車に乗せられ、どこかに連れて行かれた。

だがその道中、追っ手に見つかったのだ。

自分の周りにいた大人たちが次々と剣で切り殺される光景が、はっきり目に焼き付いている。

そのときのことを思い出し、クライドはガタガタと震えた。

「ぼくは……どうして……」

てっきり、自分も殺されるのだと思っていた。

クライドはまだ五歳だが、異母兄との戦で負けたことや、それによって追っ手に追われ続けていることも分かっていた。

十二歳年上の異母兄は冷酷で無慈悲な男だと、大人たちは言っていた。

敗者となった自分たちを、容赦なく撲滅させるつもりなのだと。

「ぼくは……どうして、生きてるの……?」

アモンはただクライドの手を握り、悲しげな顔をするだけだった。

死んだと思ったのに生きている。

身体が動くなら、手を叩いて歓喜したいほどの奇跡だ。

だがアモンは、よかったですねとも、もう大丈夫ですとも言ってくれない。
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