悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!
――ガラガラガラ!

間近に迫る轟音に我に返ると、坂の上からナタリアとロイめがけ、積み荷を積んだ車がものすごい勢いで迫っていた。

厩舎で馬から車両を外す際、何らかのトラブルがあって車両だけが暴走してしまったのだろう。

車の上には見るからに重そうなドラム缶がみっしりと詰まっていて、かなりの重量がありそうだ。

坂を下るスピードも速く、矢のごとくぐんぐんこちらへと近づいている。

(え……? あんなのに当たったらひとたまりもないじゃない)

ナタリアは青ざめる。

車両が自分とロイにぶつかるまで、およそあと五秒。

前世の記憶があるおかげでナタリアの頭脳は三歳児よりは発達しているが、体は幼児のままである。

瞬時に大きな車両を避けられる運動能力も瞬発力も不十分だ。

腕の中で、ぶるりとロイが震えた。

ロイも今の危機的状況を察知して怯えているらしい。

怯えるロイを抱いたまま車を避けるのは絶対に無理だろう。だとすると……。

(そうだ。ロイだけでも助けなきゃ)

「えい……っ!」

ナタリアは、力の限りロイを自分の手から押し出した。

ロイは地面に倒れ、坂を転がるようにして迫りくる馬車から離れていく。

それを見てナタリアはホッとひと息吐くと、覚悟を決めた。
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