悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています！
「こ、こわかったです……」

リシュタルトは、物怖じしない堂々とした者を好む。

だから臆病なところを見せてはいけないはずなのに、本音が口をついて出てしまう。

本当に、死ぬかと思った。

前世で亡くなる直前の情景に、すごく似通っていたから。

だがナタリアは今も息をしている。

奇跡としかいいようのない状況だった。

「もう大丈夫だ」

耳元で声がした。

いつの間にかリシュタルトが狼から元の姿に戻り、間近でナタリアを見つめていた。

（初めて話しかけられた……）

あまりにも近い距離感に躊躇いつつも、胸はじいんと感慨に浸っている。

「クウン、クウン」

リシュタルトをじっと見つめ返していると、ロイがナタリアの足元にすり寄ってきた。

「ロイ、無事でよかった！」

ナタリアはリシュタルトから離れ、ロイを抱きしめる。

ロイは自分だけ逃げてしまったことを詫びるように、悲しげな声を出しながらナタリアの足をしきりにペロペロと舐めている。

「大丈夫よ、ロイ。怖かったものね。あなたは悪くないわ」

父が近くにいることを忘れ、優しくロイに話しかけるナタリアを、リシュタルトはどことなく和やかな表情で見つめていた。
 
< 40 / 251 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop