溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
夢のないプロポーズ
『熱帯夜は昨日まで。今夜は気温が下がり、久しぶりに過ごしやすい夜となるでしょう』
朝、出勤前に見たお天気キャスターの爽やかな笑顔が、頭の隅にちらついた。
ベッドに組み敷かれた私の全身からは汗が噴き出ている。熱帯夜ではないはずなのに、暑くてたまらない。
『すごい汗だな。そんなに必死で俺を欲しがって……かわいい妻だ』
不意に、生暖かい舌が首筋に這わされ、そこに浮かんだ汗を丁寧に舐め取る。彼のかたい手のひらは胸をまさぐり、互いの中心はすでに繋がっていた。
『維心、さん……っ』
『どうした、悠里。切なそうな目をして。まだ、俺が足りないのか?』
顔を近づけてきた彼が、挑発的な微笑みを浮かべて唇を奪う。貪るようなキスを交わしながら、ベッドが激しく軋む音と、互いの荒い呼吸音を聞く。
私にとっては、夢のようなひととき。しかし、この行為は純然たる繁殖活動。
そこに愛情などなく、目的は夫、桐ケ谷維心の跡継ぎを残すこと。彼はただ、健康で若い女性に自分の子を産んでほしいだけなのだ。
それでも幸せだと言ったら、あなたは笑うだろうか。
たとえ行為を盛り上げるためだけのキスでも、心にもない甘い言葉でも。あなたがくれるものは全部、涙が出そうになるほど愛おしいんだと言ったら――。