溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
それだけのやりとりに小さな幸せを感じながら帰り支度をし、オフィスを出る前に維心さんのデスクを見やる。
彼もちょうど帰るところのようで、デスクを軽く整頓してビジネスバッグを持つと、オフィスの入り口に立ち尽くす私のもとに歩み寄ってきた。
「今日は電車だが、それでよければ一緒に帰ろうか」
間近に立った維心さんは、いつも通りの彼だ。たとえばスーツに女の人のメイクが付いていたり、いつもと違う香水の香りがしたりという、あからさまな浮気の形跡みたいなものは見つからない。
……って、私は維心さんを信じているのになんでこんな探るような真似を。
「は、はい。一緒に電車で帰るなんて新鮮ですね」
「混んでいないといいが」
維心さんのそんな願いもむなしく、駅に着くとホームも電車も行きと同じくうんざりするほど混んでいた。
しかし、乗り込んだ電車では維心さんが大きな体を盾にして私を守るように立ってくれたので、行きよりはずっと快適に乗っていられた。
駅からマンションまで歩く間、維心さんは出張中の話をたくさん聞かせてくれたけれど、昨日の夜のことに関してだけは、まったく触れなかった。
とはいえ、あの時は私と直接電話で話したし、とくに語るべき内容がないっていうだけだ。そうに決まってる。