溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「ごめんね……」
「いや、無理してこんな場所に来させた俺が悪かった」
彼に付き添われながらラウンジを出て、大理石の床が美しいロビーを横切り化粧室に向かうその途中。誰かが追いかけてくるような足音がして、私たちのすぐ後ろで止まった。
「悠里!」
愛しい人の声に名前を呼ばれ、私は吐き気を忘れて振り返った。
そこに立っていたのは、肩で息をしながら、切なげに私を見つめている維心さん。
「どうしてこんなところにいるんだ?」
維心さんはそう言って、ちらりと鋭い視線を元木くんに向ける。そんな彼に気圧されたかのように、元木くんは私の肩に置いていた手をパッと離した。
私は一歩、維心さんとの距離を詰め、まっすぐに彼を見つめて尋ねる。
「維心さんこそ……どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「それは話してあるはずだ。弟と待ち合わせを――」
「嘘! 女の人と一緒にいたくせに!」
つい大きな声を出してしまい、ロビーを行きかう人々の注目を集めてしまう。
それでも維心さんから視線をそらさず、挑むように彼を見つめ続ける。維心さんはなぜ自分が糾弾されているのか計りかねた様子で、小さく首を傾げながら言う。
「……ああ、そうか。悠里は会ったことがないんだったな。彼女は桐ケ谷美久。玄心の妻だ。弟は仕事で到着が遅れていて」
「え……?」