溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
「元木お前、鮮やかに商談失敗させた直後になにを青春してるんだ。いい御身分だな」
元木くんの後ろで嫌みっぽくそう言ったのは、狐のような細い目に、ガタイの良い大きな体が印象的な、二課の梶原さんだ。私や元木くんより三年先輩で、去年は元木くんの教育係をしていた。
「梶原さん……驚かせないでくださいよ。でもあの物件、俺としてはあまりオススメじゃなかったんで、失敗するべくして失敗したというか」
羽交い絞めにされたまま、先輩に意見する元木くん。まったく悪びれた様子のない彼に、梶原さんの眉がぴくっと動いて苛立ちを露わにする。
「お前の主観は関係ない。はい、次の契約獲得に向けてさっさと動く」
「わかってますって。じゃあな早坂、今度飲みにでも行こう」
「う、うん。またね」
無理やり二課の方に連行されていく元木くんに手を振りつつ苦笑する。
すると彼らと入れ替わるように、役職者会議に出かけていた清水課長がオフィスに戻ってきた。
五十代前半の清水課長は、天然パーマの白髪頭にウェリントン型の眼鏡をかけている、温厚な上司だ。
「お疲れさまです、課長」
「ああ、よかった早坂、いてくれて」