溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
その日は、お盆休み直前の最後の勤務だった。
すでに休暇に入っている同業者も多く、この時期に部屋探しをするお客さんも少ないため、営業一課の電話はほとんど鳴らない。
先輩方は研修に出かけたり、秋の繁忙期に向けてのキャンペーンの準備に取り組んだり、普段とは違う時間の使い方をしている。
私も通常の事務作業が早く終わったため、時間に余裕のある時にしかできないパソコンのデータ整理をしたり、デスク周りの清掃などに精を出したり。そうこうしているうちに、定時の十八時を迎えた。
椅子に座ったままうーんと両手を上に伸ばしていると、すぐそばから話し声が聞こえてきた。
「よし。行け、元木。今度こそ決めるんだ」
「部長、まだ戻ってませんよね?」
「ああ、いないから、早くしろ」
声のした方を向くと、お馴染みの元木くんと梶原さんコンビがそこにいて、どこか緊張の面持ちをした元木くんの背中を、梶原さんがドン、と押した。
よろけてこちらに近づいてきた元木くんが、ぎこちなく口を開く。