溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
私を繋ぎ止めておくための、ご褒美みたいなもの……? だとしたら、彼は優秀な策略家だ。
まんまとその罠にはまった私は、あなたから離れられない。
私はぴとっと彼の胸に顔を寄せて、ご褒美を存分に受け取る。そのうち彼の手が私の髪をゆっくり梳き始め、眠ってしまいそうなほど心地よくなっていたけれど。
――ぐう。
ふと、私のお腹の中から気の抜けた音がして、恥ずかしくなるのと同時に思い出す。
「そうだ、カレーが……」
「ああ、忘れていたな。今度はちょっかいを出さずに手伝うから、早く仕上げてしまおう」
私たちはせっせと服を身につけ、今度こそ真面目にカレーとサラダを完成させた。
カレーは市販のルーを使ったなんの変哲もない味だったけれど、維心さんは気持ちいいくらいの食べっぷりであっという間に完食した。
「お口に合ったみたいで、よかったです」
「初めて悠里が俺のために作ってくれてたものだからな。美味しさもひとしおだよ」
またしてもそんな言葉のご褒美を与え、私をいい気にさせる維心さんは、本当にずるい策略家だと思う。
でも……もしも彼の計画通り私が妊娠し、桐ケ谷家の跡継ぎも心配いらなくなったら、どうなるんだろう?
目的は達成。子作りをする必要も、ご褒美を与える必要もなくなる。カレーを食べながら、ふとそんな単純なことに気付き、心に黒い雲がかかっていくのを感じた。
……もしかして、子どもができたら、こんなごく普通の日常も奪われる?
「悠里、食べないのか?」
スプーンを動かす手が止まった私に気付き、維心さんが不思議そうに尋ねてくる。
私は慌てて笑顔を取り繕い、カレーを口に入れる。しかしまったく味はせず、まるで砂を噛んでいるようだった。