溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
そして再び春がやってきて、彼女も頼もしい二年目の社員になった頃。
ほとんどの社員が退社したオフィスで、たまたまひとりで残業している彼女の姿を見つけた俺は、しばし逡巡した。
これは、話しかけるチャンスではないのか? 彼女ももう新入社員ではなくなったことだし、勇気を出して食事にでも誘ってみようか。
と、一年経ってようやく行動を開始しようとした俺が彼女のデスクに近づいていったその時だ。
――グスッ。
小さな背中の向こうから洟を啜る音が聞こえ、俺はぴたりと足を止めた。
まさか、泣いている?
半信半疑で彼女を見つめていたら、悠里はデスクの上のティッシュボックスから何枚もティッシュを引き抜いて、思い切り鼻をかむ。
その後、意気消沈したかのように肩を落としてため息をつく彼女に俺は結局声を掛けられず、すごすごと自分の席へ戻った。
仕事で悩んでいるのだろうか。それとも、恋愛? そういえば、俺は彼女に恋人がいるかも、どんな男が好みなのかも知らない。
もしも愛し合う恋人がいるのなら身を引くしかないが……そいつがもしも彼女を泣かせる男なのだとしたら、許せん。八つ裂きにしてくれる。