君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~
予期せぬ出来事
「海里、いい加減にしなさい」
少し開いた社長室の扉の奥から聞こえてきた声にビクッと身体を震わせた。
何事だと、同じフロアにいた社員の視線は一気に社長室に向けられ、私も耳を澄ませた。
「俺はいい加減なことをしているつもりはないよ。真面目に仕事しているし」
「仕事のことじゃないわ」
「じゃあ何?」
「あなた、最近はずっと事務所に寝泊まりしているでしょ」
「それが何か問題でも?」
「何か問題でも、じゃないでしょ。応接室が海里の私物で邪魔なのよ。それを片付けなさい」
「あ、そのことか。だって家に帰っても飯を食って寝るだけだし、今は忙しいから事務所に寝泊まりした方が楽なんだよ」
社長室から聞こえてきた声の主は、社長と副社長だ。
私、伊藤香澄、『水上デザイン事務所』で働く二十四歳。
ここで働く前は派遣社員として、いろいろな会社で仕事をしていた。
去年、事務員募集の求人を見てアポイントを取り、面接の末に就職した。
毎日のように雑用に追われながらも、それなりに充実した日々を過ごしている。
この『水上デザイン事務所』は建物のデザインから企業のホームページの作成、商品のパッケージなど幅広く手掛けている。
社員は二十人弱で大きな会社という訳ではないけれど、とある商業施設を手掛けてから業界内で注目されている会社だ。
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