君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~
可愛いキミ

参ったなーーー。
赤信号で車を止め、助手席で眠ってしまった彼女を見て小さく息を吐いた。

住んでいる場所を聞きそびれた。
車に乗った時に聞けばよかったんだが、気がつけば気持ちよさそうに目を閉じていた。

手を伸ばし、頬にかかる一度も染めていないであろう艶やかな黒髪を耳にかけた。

伊藤香澄、彼女の第一印象は控えめで真面目そうな女性。
話してみると素直でいい子だなと思った。

毎朝、早く出社して事務所の窓を開けて空気の入れ替えをして、全員の机を拭いて回る。
社員が帰社後に届いたファックスをそれぞれの担当の席に届けたあと、コーヒーを淹れて自分の席に座って飲む。
事務所に寝泊まりしていた俺はそんな伊藤さんの姿を何度も目にしていた。

責任感が強く、仕事に対する姿勢とか真面目なところに好感を持っていた。
でも、伊藤さんはあまり目も合わせてくれないし、俺のことを苦手なんだろうなと思っていたから必要以上に話しかけることはしなかった。

俺は母親や周りの人から「仕事以外の言動が軽い」とよく言われていた。
その発言には思い当たる節がある。

初対面で女性のことを下の名前で呼んだりしているけど、それはうちの会社の子限定だ。
それには俺なりの理由があった。
面接に立ち会った時とかガチガチに緊張しているのでそれをほぐそうと良かれと思ってやっていた。
< 13 / 28 >

この作品をシェア

pagetop