君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~
三十歳を前に母親から「結婚はどうするの」と言われ始めた。
仕事が忙しかったので、そういった恋愛関係は後回しにしていた。
というか、それどころではなかったというのが実情だ。
働き始めた頃はコンペに負けるし、クライアントからダメ出しを何度もくらった。
そのたびに、自分の実力不足を痛感した。
一人前になるべく、たくさんの経験を積んでスキルアップを目指した。
とにかくがむしゃらに働いた。
資格だっていろいろ取得するために勉強し、全てにおいて努力を惜しまなかった。
今ではクライアントから直接オファーをもらえるようになった。
仕事に夢中になると他のことがおろそかになる。
徹夜だってザラだったので、生活が不規則になる。
恋人と呼べる存在がいなくなって何年たったか思い出せないぐらいだ。
そんな時、うちの会社に伊藤さんが就職した。
俺は美桜ちゃん以降、新しく入ってくる女子社員の名前呼びを改めた。
特に心境の変化があったわけではないが、三十過ぎの男に二十代前半の女性が名前で呼ばれるのは嫌かなと思い始めたからだ。
今まで名前で呼んでいた人に急に苗字で呼ぶのは違和感があったので、そこは変えなかったけど。