君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~
伊藤さんの仕事に対する姿勢や、痒いところに手が届くような気づかいは尊敬に値した。
よく周りを見ていて、外回りから帰ってきた時に何も言わずに飲み物を持ってきてくれる。
なかなか出来そうで出来ないことだ。
そういうところもお袋が気に入っているんだと思う。
伊藤さんのことは好みのタイプではあるけど、会社での俺は彼女に好かれる部分が一ミリもないだろう。
お袋の期待に応えることは出来ないと伝えると心底残念がっていた。
それがまさか、あんな突拍子もない提案をするとは思わなかった。
お袋に以前から事務所に寝泊まりしていることを何度も注意されていた。
分かっているんだが、遅い時間まで仕事をしていたら家に帰るのが面倒になる。
そんなことを繰り返していたから堪忍袋の緒が切れたんだろう。
伊藤さんに俺の身の回りの世話を頼むという暴挙に出た。
俺の生活改善と、どうにかして俺と伊藤さんの接点を持たせたいという執念。
お袋にとってはウィンウィンの計画だったんだろう。
これにはお手上げだったけど、伊藤さんが断れば話は終わる。
間違いなく断ると思っていた。
だけど、俺の思惑と裏腹に伊藤さんがそれを了承した。
話しかけても素っ気ないし、どちらかと言えば俺は嫌われているんだろうと思っていた。