君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~
ヤバい、最後の言葉は完全に愚痴だ。
つい勢いで苗字のことまで言ってしまった。
「何?伊藤さんは名前で呼んでほしかったの?」
副社長は口元に笑みを浮かべながらベッドに座ると、私の顔を覗き込んでくる。
「いや、そんなことは……」
焦りながら視線をさ迷わせる。
距離が近いんですけど!
「香澄」
不意打ちで副社長に名前を呼ばれ、おかしいぐらいに胸の鼓動が高鳴った。
顔がみるみるうちに真っ赤に染まるのが分かった。
「名前を呼んだだけでそんな顔されると、勘違いしそうになるんだけど」
副社長は困惑の表情を浮かべている。
そんな顔?
バカみたいに真っ赤になっている顔だろうか。
さっきから異常に頬が熱い。
「お見苦しい顔を見せてしまってすみません」
「そういう意味じゃないよ。もしかして、伊藤さんは今まで誰とも付き合ったことがないとか?」
言い当てられ、私は小さく頷いた。
そんなに分かりやすいんだろうか。
恋愛スキルはゼロ。
友達の話やネットの情報でしか恋愛関係のことが分からない。
「そっか。じゃあ、彼氏に立候補してもいい?」
副社長の口から出た言葉にこれでもかというぐらい目を見開いた。
聞き間違い?
それともからかわれているんだろうか。
「それってどういうことですか?」
副社長の意図が分からず聞き返した。