君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~
うちは社内恋愛禁止という訳でもない。
鳴海さんは常に男性社員に牽制をかけ、美桜さんを守っているように見える。
そのことで副社長が鳴海さんをからかっているのをよく目にしていた。
「美桜ちゃんも厄介な男に捕まったね」
「大きなお世話だよ。俺より海里の方が厄介だと思うけど」
「俺は至って普通だよ。じゃ、仕事に戻ろうかな。美桜ちゃん、弁当の件よろしく」
軽く手を上げ、二人に背を向けた。
副社長は清潔感のある短髪で目鼻立ちの整った端正な顔立ちをしていて、真面目な好青年に見える。
だけど、話すとすごくフランクというか言動から軽い人なのかなという印象があるけど、仕事となれば話は別だ。
空間デザイナーとして多くの店舗を手掛けている。
クライアントが求めるものを瞬時に理解し、それの上をいく提案をする。
私はそんな副社長の仕事に対する姿勢に憧れていた。
じっとパソコンを見つめて真剣に考えている姿は普段とギャップがあり、ドキドキした。
それが恋心と気づくのに時間はかからなかったけど、手の届かない存在の人だから、私はその想いを封じ込めた。
美桜ちゃんか……。
副社長はほとんどの女子社員のことを下の名前で呼んでいて、すごく距離が近いなと感じていた。
だけど、私のことは“伊藤さん”と苗字で呼ぶ。
そのうち名前で呼ばれるのかなと淡い期待を抱いていたけど、いつになっても私の呼び方は変わらない。