エル・ディアブロの献身
けれど、この手のタイプは相手にすること自体がダメなのだと一和理さんに教わった。きちんと、はっきりと、言葉にして伝えてもそれを受け入れない人とは、まともに話し合う、なんてことを望んではいけないのだと。
「花梛」
「っ、や、」
このまま家に戻れば、住んでいる場所を教えるようなものだ。かといって、彼を撒けるほどの手腕は持ち合わせていない。
どうしよう。
なんて悩んでいれば、それを考える暇すら与えてはくれないのか、腕を掴まれ、引かれた。
「……は、離して、」
止まる、足。
反転する、身体。
掴まれた、両肩。
ばちりと視線がぶつかりあって、ひくりと喉がうねる。
抗いたいのに抗えなくて、怖いのに怖いと言えなくて。ばくん、と心臓が大きく揺れた。
「花梛、俺、」
「はい、そこまで」
瞬間、視界の端から腕が伸びてきて、私の肩を掴んでいる手を叩き落とす。
次いで、遮られる視界。きっちりとアイロンされた白いシャツに覆われた、広い背中。暇さえあれば隠れて見ている私には、それが誰のものなのかすぐに分かった。
「っ」
「お前、昨日の奴だよな。花梛に何の用?」
私とその人の間に割って入って、守るかのように、相手の視線から隠してくれる。
特別な意味なんてないと分かっているのに、違う意味でまた、ばくん、と心臓が揺れた。