エル・ディアブロの献身
店を閉めて、はい今日のお仕事終了~、とはいかない。
お客様がいなくなれば掃除や片付けがあるわけで、一和理さんに至っては、レジを締め、それの内容をパソコンに打ち込む作業もある。本来ならば、掃除と片付けが終了した時点で帰れるのだけれど、もうひとりの従業員くんは「自分も店持つの夢っス」と一和理さんから色々と教わるために残り、私はあの誘拐監禁未遂事件以降、「ひとりじゃ帰らせられねぇ」という彼と共に帰路につくために残っている。
最初は大丈夫だと遠慮していたけれど、通り道だからと彼は頑なだった。それでも遠慮する私を説得する隊にもうひとりの従業員くんが加わり、ダメ押しにと優美さんが加わったことで、不承不承、私は折れた。
「……いるな」
「……いま、すね、」
つまるところ、二時間。店を閉めてから、私達が店を出るまでに要する時間はだいたいそれくらいだ。
よって、閉店の一時間前のラストオーダーの時に店を出た件の彼は、単純計算で三時間、視線の先にいるその人が見間違いでもない限り、彼の言っていた「駅前のファミレス」で私を待っていたということになるのだろう。
「……話、聞いてやれば?」
三時間。
一日の内のハチブンノイチをたかが金づるのために無駄にするような人の話なんて聞きたくない。
「……俺、近くの席で待機してるから……な?」
そう思っているのに、私は、どうしてだか、一和理さんの「な?」に弱い。