エル・ディアブロの献身
裏口の施錠をしていた従業員くんから離れ、朝地一咲の近くへと歩み寄る。
「……確か、家、反対方向でしたよね……? 私、一咲くんに、送ってもらいます」
「いやでもさ、」
「大丈夫です。一咲くんとは同じ学校だったので……お店では店員とお客様なので線引きしてましたけど、プライベートでは普通に喋る仲ですし……平気です」
二度と呼ぶことはないだろうと思っていた名前を呼びながら、それの持ち主の袖をつかむ。
視線を従業員くんへと戻して、もう私のことは放っておいて欲しい、と遠回しに伝えれば、彼は少しだけ苦い顔をした。
「ね? 一咲くん」
「うん」
一和理さんに怒られるかもしれない、と危惧しているのだろう。そんなわけないのに。まぁ、仮にそうだとしても、そこを気遣えるような余裕が今の私にはない。
千載一遇のチャンスを逃してなるものかと、朝地一咲へと視線を向け、視線が絡んだのを確認してから、こてりと首を傾げた。
それをどう捉えたのか。にこりと笑って、相槌をうってくれたことには、癪だが感謝しよう。
「……分かった。じゃあ俺はここで。お疲れさま」
「……はい。お疲れさまでした」
小さく吐き出されたため息と、それに寄り添う了承。
ひらひらと手を振りながら身体の向きを変えた従業員くんに、ぺこりと頭を下げた。