エル・ディアブロの献身
少々、大人気なかっただろうか。
顔を洗いながら、歯を磨きながら、気を遣ってくれただろう人間への態度ではなかったなと反省し、「顔を洗ったらリビングに来て」と、指定されたそこへと向かえば、テーブルの上にはココアの入ったマグカップが置かれていた。
「ココアは好き……だったよ、な……?」
過去、私が彼と、付き合っていると思い込んでいた半年間の中でたった一度だけ、彼の前でココアを飲んだことがあった。
好きだと、言ったことはない。しかし、飲めるもの、イコール、好きなもの、という方程式を何の疑問も抱かず成り立たせる人間は少なからずいる。
あなたとコーヒーを飲む気はない。言外にそう伝えたつもりだったのだけれど、やはり濁した言葉では彼には伝わらないのだろう。にこりと微笑んで「どうぞ座って」と言わんばかりに手のひらで示された椅子。「いらない」と、「いや別に好きじゃない」と、言われないとでも思っているのだろうか。
「……甘すぎたり、してないか?」
しかし、ココアに罪はない。
椅子に座り、ゆらゆらと湯気を漂わせるそれを手に持って、二、三度、息を吹きかけてからこくりと一口飲み込んだ。
「……うん、ありがとう」
口の中に広がる、甘ったるい液体。
けれどそれは、嫌な甘ったるさではなかった。