エル・ディアブロの献身
「送ってくれてありがとう」
「またな、花梛」
柔い微笑みと共に放たれた言葉には、曖昧に笑って、自宅アパートの扉を閉めた。
ガチャ、カシャン。鍵とチェーンロックをしてから、細くて狭い廊下を進んで、特売で手に入れたマットレスの上へとダイブ。ベッドフレームのない剥き出しのマットレスは、あの男、朝地一咲が持っていたものとは雲泥の差だ。
「……お金持ち、なんだよ、ね、」
あの頃はそこまで意識していなかった。
お金持ち。そう言われることは多々あったけれど、実質、会社を運営、維持しているのは祖父母や両親で、私自身は彼らの孫や娘でしかない。用意された場所に支えられて立っていただけだ。
けれどもう、私も、彼も、自力で立っている。己の用意した場所に、己の足で。
見ただけで分かる高級なスーツと革靴。ブランド物の時計。お抱え運転手と高級車。全てが高品質な彼のプライベート空間。
良くも悪くも、変わってしまった。私も、彼も。
今のところ、彼自身に昨夜のことを機に取り入ろうなんて素振りは見えなかったけれど、絶対はない。私が金づるにはなれないことをまだ彼は理解していなさそうだから。
「…………対策を、考えよう、」
ぽつりと小さな決意をこぼした瞬間、待ってましたと言わんばかりに襲い来る睡魔。そこまで意識してはいなかったけれど、少なからず気を張ってしまっていたのだろう。
抗うことはせず、ゆっくりとまぶたを閉じた。