エル・ディアブロの献身
しかしやはり、神様なんてものは、いないらしい。
「イオリくんなら来ないよ。来るはずないよ。だって彼、奥さんおめでたなんだろ?」
「っ!」
背後で声がした。
それと同時に、それまで何も感じなかった、己以外の他者の気配を感じて、背中がぞわりと毛羽立つ。
「ずるいよねぇ、彼。こんなにハナちゃんに愛されてるのにさぁ……奥さんしかみていないとか……はは……さすが、キミが愛する男は違うねぇ」
こつり、こつり。吐き出され続ける声に混じって、響く足音。それは徐々に近付いてきて、視界の端に影を写り込ませた。
「ハナちゃん」
「……っ、ひ、」
「やっと、ふたりきりになれたね」
かつり。足音が止まり、端から順に視界を占領していた影、声の持ち主の足が中央で折れ、覗き込むように顔が現れる。
「ずっと、ずっとね、準備してたんだ」
「……や、やだ、」
「ハナちゃんと、僕だけの、世界を」
にたぁ、と。
目の前のカサカサに荒れた唇が弧を描いた。