エル・ディアブロの献身
ハナちゃん。
何度目か分からない、呼ばれたそれを合図に、男は、私の頬に触れた。
「っ」
びくっ、と肩が揺れる。しかし男は気にしたようすもなく、ゆっくりと指を往復させた。
かさついた指先のせいで、頬をなぞる微かな痛み。するりと、そこから、親指だけが横に位置する唇へと移動した。
「ふ、ふふ、」
「……っ」
「柔らかい、ね、」
ざり、と音が鳴った。
かと思えば、軽くつままれた下唇。ぞわりと全身が毛羽立つも、身体はおろか、視線さえも、動かせなかった。
「……っ、や、」
ふにゃ、ふにゃり。粘土をこねるように私の下唇を弄んだあと、当たり前だと言わんばかりに男は顔を寄せる。
本能的にキスされるのだと感じ、咄嗟に避けて顔を伏せた。顔を無理矢理持ち上げられたり、固定されたりすればそれまでだけれども、嫌だと、私はそんなこと望んでいないという意思表示は怠りたくない。
「……は?」
やめて。
小さく、聞こえたかどうかも怪しいくらいの声量でそれを呟けば、疑問符付の低い声が眼前に落ちた。