エル・ディアブロの献身

「やめて、って、何。いや意味分かんない。分かんないよ、ハナちゃん……だって、だってさぁ……ハナちゃん、別にイオリくんじゃなくったっていいんでしょ?」
「…………え、」
「知ってるよ、僕。知ってるんだよ」

 何、を。
 そう言おうとして、しかし、口を開くよりも先に、「これ」と男は手に持っているそれを、伏せた視線の先へと潜り込ませるようにして突き付けてきた。

「……っ、」
「すごく、よく写ってるでしょ」

 視線を少しだけ動かしたその先で、(みずか)ら光を放つそこにあるのは、寄り添う男女の画像。男は女の肩を抱き、女は男に寄りかかっている。そのふたりの側には、一目でそれだと分かる高級車。

「…………な、なん……で」
「何で? それ、僕のセリフだよ。ねぇ、何で僕はダメでこいつはいいの? ねぇ、何で? ねぇ!」
「っい」

 朝地一咲と、私だ。
 それを認識して、一拍おいて、持ち上がった視界と、頭部を襲った鋭利な痛み。ぶち、ぶちりと、引きちぎれるような音が聞こえた。

「でもね、許してあげる。僕、優しいから……だから、ねぇ、ハナちゃん」
「っ」
「今から上書きするからさ……この先はもう、僕だけ、って約束してね?」

 かと思えば、横たえていた身体の上側を押され、仰向けに倒された。
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