エル・ディアブロの献身
男は名前を付けて、女は上書きで
朝地一咲が鍵を見つけ、私の首を自由にしたと同時に、警察官とおぼしき人達が数名と一和理さんが私の背後にあったらしい扉から入ってきた。
「辛かったわね。もう、大丈夫よ」
かと思えば、そこからはもう目まぐるしく事態は動き、気付けば私は、警察官とおぼしき女性に付き添われ、カウンセラーとおぼしき女性に【心のケア】なるものを受けさせられていた。
「……はい。ありがとう、ございます」
薄っぺらい言葉に対し、薄っぺらいお礼を述べれば、カウンセラーも女性警官もにこりと笑う。
何も。
何も、微笑むようなことなんてないだろう。
そう思ってしまうのは、私の心が歪んでいるからだろうか。私が、汚れてしまったから、だろうか。
助けてくれた彼も、警察官達と共に駆け付けて一和理さんも、その警察官達によって、何やら事情を聴かれていた。事情聴取、というやつなのだろう。
「何か、話したいことはあるかしら?」
何でも話して?
そんな風な仮面を引っ付けた顔面を私へと向けるカウンセラーは、早いうちに違う職を探した方がいいような気がする。
なんて、言えるわけもないから、「いえ。何も」と曖昧に笑った。
仕事だから仕方ないのだろうけれど、【心のケア】なんて、いらない。いらないんだよ。
自分の心がどうすれば落ち着くのか。それを、私はきちんと理解しているから。