エル・ディアブロの献身

 乾いた声で「ありがとうございました」を吐き出したあと、女性警官に連れられて部屋から出て、そして建物からも出た。警察署というものに来たことはこれまでなかったせいか、何だかイメージと違う気がしたけれど、建物を出てすぐのところで一咲くんと一和理さんの姿を見つけてその違和感はすぐに消えていった。

「花梛、」

 私に気付いた一咲くんが私の名前を呼び、それに反応して一和理さんが私へと視線を向ける。

「……一咲くん、一和理さん、」

 順に彼らの名前を呼べば、ふたりは同時にくしゃりと表情を歪めて、けれど「無事で良かった」と小さくこぼしてくれた。
 ごめんなさい。
 ありがとう。
 そのふたつを口にした途端、それまで堪えられていた涙が意図せず目玉から出てきて、ひくりと喉が鳴る。
 ひっ、ひくっ、と親に叱られたあとの子供のようにしゃくりをあげれば、ぽすりと頭に何かが乗った。

「ここじゃ何だから、車、乗って」
「っ、いっ、さ……く、ん」
「マスターのとこまで送る。マスターの奥さんもすごく心配してるみたいだし、顔見せてあげな?」
「っう、うん、」
「てか今さらだけど触って平気? 嫌?」
「……や、じゃ、ない、」
「そか」
「……うん」

 こくり、小さく頷けば、ぐしゃりと髪を混ぜられた。
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