エル・ディアブロの献身
「は、花梛……?」
驚いたのだろう。少し裏返った声で名前を呼ばれた。
けれど、それに応えることはせず、抱き付いたその背中に額をくっつけた。
どくり、ばくり。額に伝わる、心臓の動く音と彼の体温。それを心地よいと感じ、安堵を覚えてしまえば、もう誤魔化せないなと悟った。
「ねぇ」
ならば、と。
「どうして、あの場所が分かったの?」
頭の片隅に寄せて、けれども消えはしなかった些細な疑問を投げかけた瞬間、どくっ、と一際大きく、彼の心臓がはねた。
「……え?」
「きみが、一番、最初だった、から、」
ずっと準備していた。
あの男は、確かにそう言った。
私とあいつだけの世界だ、と。
あの男が用意周到な人間なのかどうかと問われれば、私はイエスと答えるだろう。詰めの甘さはさておいて、前回も今回も、あの男は私を閉じ込める場所を用意していたのだからそれに当てはまる。
しかし、だ。初犯である前回はともかく、今回はそう易々と知り得るものではなかったと思う。あの男は保護観察中の身。行動のひとつひとつに疑念を抱かれやすい状況下で、あれを用意したのだとしたら、見つからないよう細心の注意を払っていたに違いない。
「ねぇ」
だと、すれば。
「どうして?」
音を吐き出し、一呼吸おいて、額を離す。少しの隙間を保ちつつ視線をあげれば、何故か、背中の持ち主は両手を肩の横あたりの高さまで上げていた。