エル・ディアブロの献身

「……花梛、」

 彼の声が鼓膜に触れ、彼の手は私の頬に触れた。

「っ、ごめ、つい、」

 かと思えば、その手を彼はすぐにひいた。
 きっと、あの男に、無遠慮に触られた私への気遣いなのだろう。

「……ううん。一咲くんなら、平気、」

 そんなの、必要ないよ。
 元の位置へと戻ろうとしていた彼の大きな手を掴んで、今度は己の手で頬のところまで引き寄せ、言外にそれを伝える。
 すり、と(みずか)ら、彼の手のひらにすり寄れば、ぴくっ、と掴んだその手がほんの一瞬だけはねた。

「……は、花梛、あの、」
「……たくさん、触られた」
「え、あ、」
「身体中、べたべた触られたの、」
「……」
「すごく、嫌だった」

 困惑の混ざった声と視線が私に向けられる。
 その様が何だか可愛くて、庇護欲(ひごよく)なのか何なのか、初めての感情が私を大胆にさせた。

「だからね、」
「……」
「上書き、して欲しい」

 お願い。
 今にも消えそうな声で紡げば、すり寄せた頬ごと顔を持ち上げられ、ふに、と唇に触れた柔らかい感触。

「……俺で、いいの……?」
「……一咲くんが、いい」

 行動と、返答。その順番、逆じゃないかな?
 なんて思ったけれど、黙っておいた。
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