エル・ディアブロの献身
「それが、お前の言う、生き地獄というものだとしても、」
電話、なのだろうか。
彼の、朝地一咲の声はよく聞こえるのに、運転手さんの声は一切聞こえてこない。中の様子を見てみたい気もするけれど、さすがにそれをしてしまえば聞き耳を立てていることがバレてしまう。
「花梛のいない、まさに地獄と呼ぶに相応しいあの頃よりは、ずっと、いい」
ならば盗み聞きなどやめればいいのに。
理性はそれを訴えるけれど、本能が私の足をこの場に縫い付けて離さない。
「同じ地獄ならば、俺は、花梛がいる地獄を選ぶ」
ばくり。
身体が揺れたのかと思うほどに激しく揺れた心臓。その音は鼓膜を揺らし、そして、体温を急速に上げる。
「だから、悪いが、明日は彼女と過ごしたいんだ。スケジュールの調整を頼んでもいいか、鷺沼」
ああ、もう。顔が、熱い。
足音を立てないように、けれども迅速に、ベッドへと戻った。