エル・ディアブロの献身
生きたまま皮膚を剥がれるというのは、おそらく普通に生きていれば経験することはないのだろう。
『……ぅ……あ、やめっ……が、あああ……っ!』
ぎし、と腰かけている椅子の背もたれを鳴らし、ショック死などというつまらない死に方だけはやめて欲しいなと思いつつ、イヤホン伝いに鼓膜へと届く汚ならしい声と、手のひらの四角い液晶の中で顔面からも腕や足からも液体という液体を撒き散らしながら蛆虫がごとく蠢くそいつを見ながら、静かに、そして小さく、ため息を吐いた。
「……写真まで渡して、花梛は俺のだから大人しくしてろ、って、ちゃんと忠告したのになァ?」
馬鹿だろ。こいつ。
くつりと、ひとり笑みをこぼせば、それまで汚いものしか撒き散らしていなかった液晶が、味気ない着信画面へと切り替わる。
「終わったか?」
『遅くなってしまい申し訳ありません。本日仰せつかった全ての業務が完了致しましたので、ご連絡させていただきました』
開口一番それを問えば、返された是。
受話口から聞こえる少し掠れたその声は、持ち主と出会った頃と変わらず落ち着きのあるものだった。