エル・ディアブロの献身
身体を重ねたあと、眠りについた彼女を起こさぬようにと寝室と隣接している自室へと移動したのは、ほんの一時間ほど前だ。彼女な眠りがどれほどの深さかは知らないが、気配を感じ取れるようにと少しだけ開けていた扉が、もしかすると裏目に出でしまったのかもしれない。
とはいえ、ここで不自然に通話を切って、彼女の元へと赴けば、疑心暗鬼から逃れられない彼女の心は再び閉ざされ、施錠されてしまうことだろう。
「……いいんだ、鷺沼。都合よく利用されていたとしても、花梛がこの先、俺を誰かの代わりとしてしか見ていなくても、」
『……ぼっちゃま……? 何、を……?』
「お前の言うように、報われない想いを抱えたまま死ぬことになったとしても、」
『……』
「それが、お前の言う、生き地獄というものだとしても、」
『……ハナ様が、お目覚めになられたのですね』
「花梛のいない、まさに地獄と呼ぶに相応しいあの頃よりは、ずっと、いい」
『……左様でごさいますか』
「同じ地獄ならば、俺は、花梛がいる地獄を選ぶ」
仕方がない。
少々演技くさい気もするが、寝起きという状況も相まって、おそらく彼女は、俺の言葉をそのまま自身の中に落として、そして置いておくことだろう。
「だから、悪いが、明日は彼女と過ごしたいんだ。スケジュールの調整を頼んでもいいか、鷺沼」
『おまかせください。ではまた、明後日、お迎えに参ります』
彼女は良くも悪くも、純粋だ。