エル・ディアブロの献身

「ああ、よろしく頼む」

 通話を終了させ、イヤホンを外した。
 ひとつ、小さく息を吐き。ゆっくりと椅子から立ち上がれば、またしても空気の動く気配を肌が感じ取る。この瞬間まで確信はなかったが、やはり彼女は起きていて、そして、盗み聞きをしていたらしい。
 都合の悪い部分は、おそらく聞かれてはいないと思う。しかしそれとて確証はない。彼女の様子を見て判断するしかないかと、寝室へと足を向けた。

「……花梛、」

 静かに歩き、静かに入室。そしてまた静かに、そろりとベッドへ近寄り、ゆっくりと腰をおろした。

「……良かった。うなされたり、してないね」

 するり、あどけない寝顔を撫でれば、ぴく、と僅かな反応が起こる。呼吸の仕方もどこか意図的であることから、寝たふりなのは確かだが、今ここでそれを指摘しようとも得られるものは何もない。
 寧ろ、この可愛いらしい寝たふりに騙された方が得られるものがある。

「おやすみ、花梛」

 さらりと流れた彼女の髪をひと掬いして、そっと口付けた。


 ー裏 終ー
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