死と生の境界線
いつもより高い景色。
見晴らしの良いギリギリのところまで行くと、私は身を乗り出し、高さのある手すりを越えてみた。
いつでも越えられるけれど、決して越えてはいけないハードル。
下を見下ろすと随分と高くて、恐怖で足がすくんだ。
ここから飛び降りると即死なのだろうか。
ぼんやり頭でそんなことを思う。
まさに、死と生の狭間。
私は、こうして常に死と隣合わせを感じているのかもしれない。
屋上の端から端まで、境界線を恐る恐る渡り歩いた。
一歩バランスを崩すと、真っ逆さまに落ちるのは簡単そうだった。
それでも自ら空へと飛び込む気にはなれない。
結局、そこまでの勇気もないのかもしれない。
今日も、死ねなかった。
私は、時々、こうやって自分の存在を確かめているのかもしれない。
……死ぬ勇気なんてないくせに。
携帯のアドレス帳から、彼の名前を探した。
なんとなく、今さらだけど一応連絡しておこうという気になったから。
『今までありがとう。
一緒に過ごした時間は凄く楽しかったよ。
幸せになってください。』
たった3行のメールを打つと、すぐに返信が返ってきた。
『こちらこそ、ありがとう。
一方的でごめん。
俺も楽しかったよ。』
笑いそうになってしまうほど、簡潔な内容だった。
こんなものなんだよ。私たちの関係性なんて。
その時、新着通知が届いた。
クラスメイトからのメールを開くと、同じクラスの女の子が自殺したという内容だった。
「うそ……」
胸が強く打たれた。
あまりにも突然で、信じがたい出来事だった。
でも、生きているのがつらいのは、きっと私だけじゃない。
そう思うだけで少し気持ちが軽くなった気がした。
亡くなってしまった子には本当に気の毒だけれど、みんな、それぞれ悩みや葛藤を抱えながら精一杯生きている。
死にたい訳じゃない。
この先、どうしようもなくつらいことが沢山あるかもしれないけれど、死ぬという選択肢だけは自ら選んではいけない気がする。
だから時々、私は生きているということを実感するために、ここへやってきて死と生の狭間を体感しているのかもしれない。