お嬢様と羊
「陽葵?どうした?」
一弥が陽葵の顔を覗き込んだ。

「ううん、なにも…」
「今陽葵さん、秀人って言ったよな?
どーっかで聞いたことがあんだよな……」
空牙が天井を見上げ、言った。

「やめて……」
陽葵が小さく呟く。
手が震えている。
「陽葵?」
一弥が陽葵の小さな手を包んだ。

「あ、思い出した!
伝説の“狂った狼”だ!!」
「陽葵、知り合いなの?
俺、会ってみたかったんだ!」
「でも確か…だいぶ前に死んだって聞いたっすよ!
カシラ」
一弥と空牙の言葉に、晋輔が答えた。
「なんで?」
「それはわかんねぇ…確か、抗争中に━━━━━」

「やめて!!!」
陽葵が急に立ち上がる。
「陽葵?」
一弥やみんなが陽葵を見上げる。

「私、帰る!」
陽葵はスタスタと扉の方に向かった。
「陽葵!待てよ!」
「うっせー、羊!
お前、今日は帰ってくるな!」
陽葵の目から涙が溢れていた。

「はぁぁ?そんな状態の陽葵を一人にできるわけないだろ!?」
「は?羊の顔見たくねぇんだよ!?
それに、自分の身は自分で守れるわよ!」
「だからって!じゃあ、理由を言えよ!?」
「秀人の話はしたくない!!」
「え……?」

「大上 秀人は、私の婚約者だった人よ」

「え……」
「マジかよ………!?」
「あの狂った狼の?」
一弥やみんなが口々に言っている。

「四年前に、私の目の前で……私を守ろうとして、死んだの……」
「陽、葵…?」

「私のせいで……秀人は……」

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