お嬢様と羊
「陽葵、俺を捨てないよな?
約束忘れてないよな?」
少々パニックになっている陽葵に、一弥が声をかける。


「一弥、助けて…私、どうしたらいいかわからない」
陽葵のすがるような目。
一弥は胸が締めつけられる思いだ。

「旦那様、九重様。
僕にチャンスを下さい!」
一弥が大志と九重を見据えて言った。

「何だ!?」
「一年だけ、待って頂けませんか?」
「は?」
「一年で僕は、喜多川電力の役員になってみせます」
「は?無理だろ?お前、まだ20の小僧だぞ!」
「確か、役員になるには旦那様や今の役員の承認あればなれますよね?」
「そうだが」
「一年間の僕の仕事をみてください!
それで役員になれたら、陽葵様との結婚を認めてください」
一弥の目が、真剣さを物語っていた。

「一弥、無理よ!そんな約束なんかしないで!」
「大丈夫だよ!
言ったよね?
誠実にこなすして、認めてもらうって!」
一弥が微笑み、陽葵の頭を撫でた。

「わかりました」
九重が言う。
「九重さん?」
「一年後、星野くんが役員になれたら、僕が陽葵さんをきっぱり諦めます!
お義父様、よろしいですか?」

九重の言葉に、大志がゆっくり頷いた。
「わかった。明日から会社に来い」
「はい、畏まりました」
「陽葵、それまでお前はここで過ごすんだ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「羊!なんで、あんな無謀な約束なんかしたの!?
アンタ、バカ!?」
一度マンションに帰ってきた二人。
明日から一年間は、別々に過ごすことになる。

「もうそれしか、ないと思ったから」
「だからって……」
「だって陽葵、ちょっと心が動いただろ?
秀人さんの名前出されて」
「それは……」

「秀人さんには勝てない。
だったら、陽葵の親父を認めさせるしかない!」
< 28 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop