恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「それに、莉佐は悪くない。君と俺とのことは莉佐のせいじゃない」

 梓は莉佐の名前を出されるのが嫌なのか、自然と両手に拳を作り、顔をしかめた。

「唯人さんは莉佐の本性を知らないのよ! あなたがあの会社の副社長だから近づいたんだろうし、人の彼氏を平気で盗る女なの!」

「昔のトラウマがあるようだが、莉佐のほうからアプローチしたと思ってるなら違う。俺が莉佐を口説いたんだ」

 高校生のときも今と同じ状況だったんじゃないのか? と口にしそうになったものの、梓を興奮させるだけなので辞めた。
 当時のことは俺にはわからないし、今さら掘り返しても仕方がない。

「最後にこれだけは言っておきたい。今後、逆恨みで莉佐になにかしたら俺は絶対許さないからな」

 念を押すように目を見てしっかりと言えば、梓は俺の迫力に負けたのか、ひとことも言い返えさずにうつむいた。
 それを見届けた俺は、彼女の隣をすり抜けて路地を出る。

 時計に目をやれば昼の一時を過ぎていた。莉佐は大丈夫だろうか。

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