恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「なにかあった? 副社長のこと?」

 ささやくような小さな声で尋ねられたその内容に、私は驚いて彼女の顔を見た。
 唯人さんとの交際は誰にも口外していないけれど、秋本さんは自然と感づいていたみたいだ。

「昔、親友だった子にさっき会ったんです。それでちょっとメンタル的に……」

「そっか。……いろいろあるよね。話ならいつでも聞くから。私でよければだけど」

 私の事情をなにも知らないまま寄り添おうとしてくれる秋本さんの心遣いがうれしくて、(せき)を切ったようにボロボロと涙があふれた。

「私、人間関係を築くのが下手なんでしょうか。嫌な女ですか?」

「そんなことないわよ! 私は大好きよ。あぁ、どうしよう。泣かないで」

「すみません。秋本さんがやさしすぎて」

 秋本さんがあわてて渡してくれたティッシュを目頭に当てた。泣いている場合ではない。あと少しで午後の業務が始まる。

< 105 / 139 >

この作品をシェア

pagetop