恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
午後一時を十五分ほど過ぎたところで、唯人さんが会社に戻って来た。
私は黙々と仕事をしていたが、自然なタイミングで副社長室から呼び出しの内線が入り、私はいつも通りていねいにノックをして入室した。
「莉佐……」
副社長としてではなく、ただの恋人の顔をした唯人さんが歩み寄ってくる。近くで見た彼の瞳が、とても悲しそうに揺らめいていた。
「大丈夫か?」
「副社長、今は仕事中ですので……」
私のお決まりの文言などまるっきり無視で、唯人さんは長い腕を伸ばして私に抱きつき、その広い胸に閉じ込めた。
ここは会社なのに。これでは公私の区別もなにもないけれど、今だけは大目にみよう。
「ごめん。俺が悪い。文句は全部聞くし、すべて話すから」
唯人さんは少し体を離し、尋ねたいことがあるはずだと切ない表情で私を見つめる。
「梓は、自分が唯人さんと付き合っていたのに私に盗られたと言ってました。それは違いますよね?」
先ほど私を助けてくれたときに、唯人さんは梓に対して『俺は君の恋人じゃないだろ?』と、はっきりと口にしていた。
だから彼が、梓から私にスライドするように乗り換えたわけではないと信じたい気持ちが強い。
私は黙々と仕事をしていたが、自然なタイミングで副社長室から呼び出しの内線が入り、私はいつも通りていねいにノックをして入室した。
「莉佐……」
副社長としてではなく、ただの恋人の顔をした唯人さんが歩み寄ってくる。近くで見た彼の瞳が、とても悲しそうに揺らめいていた。
「大丈夫か?」
「副社長、今は仕事中ですので……」
私のお決まりの文言などまるっきり無視で、唯人さんは長い腕を伸ばして私に抱きつき、その広い胸に閉じ込めた。
ここは会社なのに。これでは公私の区別もなにもないけれど、今だけは大目にみよう。
「ごめん。俺が悪い。文句は全部聞くし、すべて話すから」
唯人さんは少し体を離し、尋ねたいことがあるはずだと切ない表情で私を見つめる。
「梓は、自分が唯人さんと付き合っていたのに私に盗られたと言ってました。それは違いますよね?」
先ほど私を助けてくれたときに、唯人さんは梓に対して『俺は君の恋人じゃないだろ?』と、はっきりと口にしていた。
だから彼が、梓から私にスライドするように乗り換えたわけではないと信じたい気持ちが強い。