恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 だけどふと、とある疑惑が頭に浮かび、私はその場でスマホの中のカレンダーをあわてて開く。

「まさか……ただの体調不良じゃないの?」

 思わず鏡の中の自分に尋ねたが、もちろん答えは返ってこない。

 私は今まで生理周期が乱れたことは滅多にないのに、今月は予定日から半月も遅れていた。
 
“妊娠”という二文字が頭をよぎる。
 気分が悪かったのは、いわゆる“つわり”なのかもしれない、と。

 仕事を定時であがると、私はドラッグストアで妊娠検査薬を購入し、自宅へ戻った。
 覚悟を決めて確かめれば、陽性を示す赤い線が判定の部分にはっきりと出ている。

 近いうちに産婦人科で診てもらわなければいけないと、頭は冷静だったものの、そのあと自分の置かれる状況がどうなるのかまでは考えられなかった。
 様々な可能性があるはずなのに、なぜか具体的に想像できないのだ。

「大丈夫。絶対に守るから」

 まだ全然実感が湧かないのに、お腹に手を当てて話しかけてみた。

 身の振り方はわからないものの、ただひとつだけ確実に自分の中で決まっていることがある。

 なにがあってもこの子を産んで育てる。

 たとえ唯人さんとの仲を誰かに引き裂かれたとしても、私はもう、この子の母親だ。その自覚だけはすでに芽生えていた。
 
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