恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「俺のいとこがね、唯人の結婚相手はどんな女性なのかと、この前電話をかけてきた。そいつは俺と唯人が親しいのを知ってるから。莉佐ちゃんか?って聞いたら、名前が違うって……。結麻さんだろって言われた」

「……結麻さん、ですか」

「もうすぐ結婚式の招待状が送られて来るって、親戚中その話題で持ちきりになってるらしい」

 唯人さんと結麻さんが結婚……
 ふたりがチャペルで腕を組んで並んでいる姿が、咄嗟に思い浮かんでしまった。それは絵に描いたような美男美女で、悔しいほどお似合いだ。
 無意識に顔が下向きになって、小さく溜め息が出た。

「いやでも、俺が知らないのはおかしいだろう」

「そうよ! 絶対デマだわ。海老原さん、信じちゃダメよ」

 秋本さんが健吾さんの意見に同調して、気をしっかり持てとばかりに私の両肩に手をかけてくれた。

 健吾さんがこの話を持ってきて私にも聞かせようとしたのが、どうやら秋本さんとの喧嘩の原因らしい。
 秋本さんはわざわざ話す必要はないという考えだったし、健吾さんにデリカシーがないと感じたみたいで、それでふたりがこんな空気になったようだ。
 私と唯人さんのせいでふたりの仲が悪くなったらと思うと、申し訳なさが先に立つ。

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